東日本大震災の発生から 9 ヶ月。
復興への道のりは長く、原発問題の収束時期も不鮮明なままだ。 しかし、これもひとつの現実として、
時間とともに震災の記憶や被災地への関心が風化している側面があることも 否めない。
人は忘れていく生き物だ。しかし、人は思い出せる生き物でもある。
そんなとき音楽が果たす役割は、やはり小さくないと思う。
いま、総勢 11 人のアーティストによる気高い意志と切なるメッセージが込められたチャリティ・ソングが、
日本全国に放たれる。タイトルは「 HOPE 」。
すべては、ひとりの男が起こしたアクションからはじまった。
彼の名は、 HirOshima 。ニューヨーク在住の日系人音楽プロデューサーである。
HirOshima は Bastiany とのプロデューサー・ユニット: MAJIOR MUSIC 名義で、
KREVA や SEEDA の最新作にも参加している。
現地の報道で東日本大震災の甚大な被害状況を知った HirOshima は、
ひとつのトラックを制作し、それを手に3月13日に来日。
まずは被災者の一時避難施設となっていた、さいたまスーパーアリーナへ行き衣類などの物資を届け、
炊き出しボランティアに参加した。

「従兄弟が石巻に住んでいて、津波で家を流されてしまった。
とにかくいてもたってもいられなかったんです。
何かアクションを起こさなければいけないと思いました」( HirOshima )

その後、 HirOshima は SEEDA とともに KREVA のもとを訪れる。
ニューヨークから持参したトラックをチャリティ・ソングとして着地させるために KREVA に協力を仰いだ。
KREVA は即快諾。その時点でトラックには「 HOPE 」というタイトルがつけられていた。
そこから HirOshima 、KREVA 、SEEDA の 3人が中心となって、すぐに「 HOPE 」の完成に向けて動き出した。

「仙台に住んでいる友だちが何人かいて、震災以降ずっと彼らに何かできないか考えていました。
HirOshima くんから“ KREVA くんとなら何か一緒にできるかもしれない”という話があって、
ふたりで一緒に KREVA くんを訪ねたんです」( SEEDA )

「その場ですぐに具体的な話に入りました。まずは、人を集めること。
それぞれが誰に声をかけたいか、誰に声をかけたらチャリティ・ソングとして意義のあるものが作れるのかを考えて、話し合って。その時点で“曲がどれだけ長くなってもいから、最低でもひとり 8 小節は唄おう。
そうじゃないと伝えたいことが言えないから”という具体的な話もしていましたね」( KREVA )

HirOshima が Che'Nell と Karibel に。 KREVA が後藤正文( ASIAN KUNG-FU GENERATION )、
Mummy-D &宇多丸( RHYMESTER )、三浦大知に。 SEEDA が lecca 、 KOJOE 、 EMI MARIA 、
そして仙台在住のラッパー: TENZAN に声をかけ、総勢 11 人のアーティストが集った。

「ラッパーや R&B シンガーが大勢いるなかで、ちょっと違うフィールドにいる人にも声をかけたほうがよりインパクトのある曲になるんじゃないかと思って。そこですぐ浮かんだのがアジカンの後藤でした」( KREVA )

「 TENZAN は友人でもあるんですけど、まだ無名のラッパーで。でも、この曲をきっかけに彼がシャインすることで、東北にフィードバックできることがあるんじゃないかと思いました。それは KREVA くんをはじめ影響力のある人と一緒にやるからこそ意味のあることで。気持ちがあっても影響力がなければ成立しないこともあるから」
( SEEDA )

レコーディングが行われたのは、4月 5月にかけて。楽曲は 3 バージョン制作された。 M2 は“ KREVA チーム”。
M3 は“ SEEDA チーム”。そしてそれをひとつにまとめた M1 の“ All Cast ”。
当初は夏にリリースする動きもあったが、様々な状況をかんがみて、
クリスマス・シーズンを見据えてリスナーのもとへ届けられることになった。

イントロからタフな共鳴を促すように響くトライバル・ビートに、静寂に包まれた夜明けから力強い日の出が導かれていく風情を想起させる重層的なシンセサイザーとピアノのハーモニーが重なる。
曇りのない優しさと、美しさと、力強さを兼ね備えたこのトラックに、11人のラッパー/シンガーによる切実なメッセージがつながれていく。M1 “ All Cast ver. ”のラスト・ヴァースは TENZAN が担っている。被災地で生活している者だからこそ体現できるラップが、胸に迫る。

「俺は自分名義の作品でも売り上げにはすごくこだわっているけど、特にこの曲はしっかり売れてほしいと思ってます。ただ純粋に歌を作りたいだけなら、ネット上にアップして無料でバラまいたほうがいいに決まっているから。最初から多くの人に届く曲にしようと話していたし、しっかり売れて、金をちゃんと作って、被災地に届けたいです」
( KREVA )

「俺も金を作ることがすごく大事だと思います。ただ、もしこの曲を買わなくても、この曲を聴いて自分も何かしようと行動を起こすひとつのきっかけになるのなら、それでもいいと俺は思ってます。そのどちらかを生む曲になればうれしいです」( SEEDA )

「うん、そうだね。間違いない」( KREVA )

「この曲に込められている一人ひとりのメッセージを聴いてほしい。そして、それを受け止めて、どんなことでもいいから被災地のために行動を起こしてほしい。そう願っています」( HirOshima )

そう、リスナーがこの曲のメッセージを受け取り、
一人ひとりが能動的な意志を持ったとき「 HOPE 」は真の希望の歌となる。



TEXT :三宅正一